ヤ田ツ枝句

March 1632013

 合作の壁画振り向き卒業す

                           花田いつ枝

年もこの季節がやって来た。自分自身の卒業の思い出はあまりに遠く、ほとんど記憶にないが、最初に卒業生を送り出した時のことはさまざまな場面と共に記憶に刻まれている。初めての袴が意外と楽だったことから、読み上げる時唯一つっかかってしまった生徒の名前まで、おそらく一生忘れないが、〈卒業の涙はすぐに乾きけり〉(今橋眞理子)の明るさが、卒業という別れの本質だろう。掲出句、見送っている教師として読んでも、一緒に校門を出ようとしている家族として読んでも、合作の壁画は、つと振り向いたその子をはじめとする一人一人を育てた、悲喜こもごもの月日を象徴している。最後に振り向いて、あとはただ前を向いて進んでほしい、と願うのみ。『海亀』(2012)所収。(今井肖子)




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